リスキリングとは
リスキリングとは、主にデジタル化した業務において必要とされる新たなスキルを習得し、身につけたスキルを活かして新たな分野で働くことです。
リスキリングはもともと、企業が自社の社員に、業務の一環として仕事で必要な新たなスキルを学ぶ機会を提供するものでした。ところが、中小企業の多い日本では、人手不足によりリスキリングを導入している企業が少なく、個人でリスキリングをする人が増えています。
企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進によって、業務で必要とされるスキルは変化しています。
プログラミングやAI・機械学習などの専門的なスキル、Webマーケティング、データサイエンス、WebデザインといったIT分野でのスキルが求められています。
DXとは
DXとは、IT化した時代での自社の競争力を高めるために、従来のビジネスモデルからデジタル技術を活用したサービスやビジネスモデルに変革していくことです。
企業ではAIやビッグデータなどの技術を活用したDXが推進されています。企業のDXには次のような取り組み事例があります。
◼︎実例1
トヨタ自動車生産現場での工程が自動化された工場を「スマートファクトリー」と言います。AIやIoT(モノのインターネット)、ビッグデータなどの技術で作業の効率化や生産性を向上させた工場のことです。
- 生産ラインでのロボットの活用により、組み立て・溶接・塗装が自動化
- 機器にセンサーを取り付けて、リアルタイムでデータを収集、解析して故障を予測
- 自動検査システムにAIを導入、製品の品質管理を素早く正確に評価
- ARやVR(仮想現実)技術で作業員のトレーニング
◼︎実例2
株式会社H.I.S旅行会社のH.I.Sは、コロナ禍をきっかけにオンライン販売を強化し「接客DX」を導入しています。接客DXにより、店舗で受けられるサービスがデジタル空間で実現しています。
- チャットbotによるヒアリング、質問への自動回答
- 有人チャットも活用し細かな対応
- ビデオ接客でカスタマーの要望や相談に対応
ほかにも、ビジネスの分野だけではなく医療、教育、社会インフラなどでのAIを活用したDXが急速に進んでいます。
リスキリングとリカレント教育のちがい
リスキリングと似た言葉でリカレント教育という言葉があります。日本におけるリカレント教育とは、個人が主体となって仕事に必要な専門的な知識やスキルを身につける学び直しのことです。
一方、リスキリングは企業が主体となって、業務の一環として仕事に必要なあたらしいスキルを身につける機会を提供します。スキルを習得した後は、企業内の部署移動などによって新しいスキルを活かした仕事を行います。
しかし、大企業以外ではリスキリングに取り組む企業が多くありません。そこで、リスキリングによってキャリアアップを目指したい個人が、政府や企業からオンラインで提供される学びの場を利用して「個人のリスキリング」をする人が増えています。
リスキリングはなぜ注目されている?
リスキリングが注目されている背景には、次のような理由があります。
企業がIT人材をもとめている
デジタル化を推進している企業では、製品やサービスを顧客に届ける業務プロセスが変化しITスキルが必要な業務が増えています。ところが、エンジニアやプログラマーのような専門的なITスキルをもった人材は少なく、企業はデジタル化に対応できる人材を求めるようになりました。人材不足は今後〜年で〜人になると言われています。
世界的な流れ
リスキリングは、2020年に世界経済フォーラムで「2025年までに8,500万人の仕事がAIやロボットに置き換わる一方、デジタル化によって9,700万人分の新しい仕事が生まれる」というレポートが発表され注目されるようになりました。
デジタル化により衰退していくことが予想される分野から成長産業へ人材をシフトすることが、雇用を守り、企業の発展につながります。そのことから、企業によっては自社の社員に必要なスキルを学び、リスキリングができる環境を整えています。
日本政府も学び直しを推進している
日本では、労働人口の減少や地方と都市のデジタル格差、デジタル人材不足の問題を解決するためにリスキリングを推進しています。
政府は、2022年6月リスキリングの推進を目的とした国や自治体、民間企業が参加する団体「日本リスキリングコンソーシアム」を設立しました。日本リスキリングコンソーシアムは、リスキリングするためのトレーニングプログラムを提供しています。2024年4月時点で1,400以上のデジタルスキルを中心とした教育プログラムが提供されています。
日本リスキリングコンソーシアムはGoogle日本法人が主となって、複数の企業や組織がパートナーとして参加しています。また、Googleが提供しているオンライン講座Grow with Googleでは、ITスキルの基礎が無料で学べる講座が多数あります。
リスキリングを個人でするメリット
オンライン講座の受講や独学によって、リスキリングを個人でするメリットは次の通りです。
キャリアアップ転職がしやすい
スキルアップをすることによる一番のメリットとは、転職市場での価値が上がりキャリアアップ転職がしやすくなることです。今後、ますます企業のIT化は進んでいくことが予想できます。基礎的なITスキルに加えて専門性のあるスキルをもつ人材は、多くの企業がほしい人材となるでしょう。
会社で昇進できる可能性がある
転職だけではなく、会社の部署移動などによる昇進ができることもあります。社内で求められているITスキルを積極的に身につけるのもいいですね。
副業にできる
身につけたスキルを活かして副業を始めることも可能です。副業とは、本業以外の仕事から収入を得ることです。働き方改革によって政府が副業を推進していることから、副業を認める会社も増えてきています。副業は、スキルを活かしたキャリア形成や自己実現につながることがあります。身につけたスキルを活かすためにも副業を始めることはおすすめです。
在宅ワークがしやすい
子育て中や介護で忙しい場合、働きに出ることが難しいこともあります。このような場合でもITのスキルを身につけておくと在宅ワークがしやすくなります。在宅ワークには、エンジニア、Webデザイン、オンライン秘書やライターなどパソコンを使ったさまざまな仕事があります。専門性が高い分野のスキルを身につけることで、在宅ワークの仕事が見つけやすくなります。
企業にとってのリスキリング支援メリット
リスキリングは、従業員にとってのメリットだけではなく、企業にとってもメリットがあります。主に次の3つです。
企業の生産性アップになる
ITスキルの高い社員が増えることで、効率よく業務が進み企業の生産性はアップします。このことから企業は、リスキリングの機会を提供し、自社の社員がスキルを身につけることを進めています。
社員の向上心につながる
社員がスキルを獲得することで自信につながり向上心も上がります。スキルの習得による収入アップの基準などを設けると、より積極的な姿勢で学ぶ人も増えるでしょう。
変化に対応できる社員の育成ができる
リスキリングによって社員がITスキルを身につけると、今後さらに広がると予想されるデジタルスキルが必要な業務に対応できる社員へと成長します。適切な学ぶ機会の提供は、社員の育成や会社の利益拡大にもつながります。
企業で求められているスキル
企業が求めているIT分野でのスキルには次のようなスキルがあります。
プログラミング
企業ではAIなどを使ったデジタル技術の急速な進歩によって、より専門的なITスキルが求められるようになっています。AIを活用した業務の効率化や、新しいシステムの開発ができるといった知識のある人材は、多くの企業にとって魅力的です。
プログラミング言語の習得によって、システムやアプリ開発、業務の効率化・自動化ができるようになります。まずは独学で学習してみましょう。さらに知識を深めるために講座を受講するのもおすすめです。
WEBマーケティング
インターネットの普及やデジタル技術が私たちの生活スタイルを変化させていることにより、企業のビジネススタイルも変化しています。変化にともない、企業はオンラインでの情報発信による顧客獲得が売上拡大に欠かせなくなっています。そのことから、オンラインでのIT技術を使ったマーケティングスキルへのニーズは高く、データをもとにしたオンライン集客ができる人材が求められているのです。
データサイエンス
データサイエンスとは、統計学やアルゴリズムなどを使って、膨大なデータから課題解決につながる情報を導き出す学問です。データサイエンスでは、マーケティングや統計学、プログラミングの領域を組み合わせてデータを分析します。根拠に基づいたデータ分析ができるデータサイエンススキルは、ビジネスの意思決定や売上拡大につながるため、企業が求めているスキルと言えます。
【体験談】データサイエンスに必要な統計学を学ぶ!こちらの記事もあわせてご覧ください
マネジメントスキル
マネジメントスキルとは目標を達成するためにヒト・モノ・カネ、を管理するスキルのことです。マネジメントスキルは、計画の立案・目標設定、リーダーシップやコーチング、コミュニケーション、課題解決能力、現状認識力、分析力など多岐にわたります。マネジメントスキルを身につけると、チームのリーダーや人をまとめるポジションにキャリアアップできる可能性があります。
AI・機械学習
最近、リスキリングで注目されている分野にAI、機械学習があります。AI・機械学習とは、ChatGPTなどのAIを使った業務の効率化やプログラミング、セキュリティなどです。将来的に業務がAIに変わる可能性がある分野では、AIを活用できるスキルが必要になってきます。企業では、AIを活用したプログラミングスキルやデータ分析ができるスキルが求められています。
政府のリスキリング支援事業
政府は、人への投資として「5年間で1兆円」を個人のリスキリングに支援するということを発表し、政府によるリスキリングの支援事業が実施されています。主な支援は次の通りです。
リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業
リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業とは、経済産業省が支援する事業で、参加している事業者から、キャリアプランの相談・リスキリング・転職までのサービスを一体化して受けられます。
キャリアの相談や転職支援は無料、リスキリングの受講費用は、要件を満たした場合は負担が軽減されます。
- リスキリング講座の受講を修了した場合は、講座受講費用(税別)の1/2相当額、上限40万円
- 転職が実現し、1年間継続した就業が認められると、さらに受講費用(税別)の1/5相当額、上限16万円
が軽減されます。
教育訓練給付制度
教育訓練給付制度とは厚生労働省が実施している制度で、働く人の主体的なキャリアプランを支援しています。雇用の安定を促す取り組みとして、教育訓練を修了した場合、受講料の一部が支給されます。
政府の補助金・給付金が受けられるおすすめの講座はこちらの記事で紹介しています!
現代社会におけるリスキリングの重要性
デジタル化が進む現代社会において、リスキリングによるIT人材の育成は急務と言われています。その理由は、少子化により労働人口が減ることに加えて、高齢化により企業で専門的なITスキルをもつ人材が少ないためです。
DXによるビジネススタイルの変化への適応は、企業の業績拡大において欠かせません。リスキリングをすることでIT分野へ労働人口をシフトし、人材不足を解消することが求められています。
企業によるリスキリングだけではなく、個人でリスキリングすることによって、市場価値が高い人材となり、キャリアアップ転職がしやすくなったり、新しいスキルが身につくことで、新しい分野にチャレンジできるというメリットがあります。
リスキリングを通して新しいスキルを身につけ、AIによるDX化が進む現代社会での自分に合う仕事や働き方を見つけていきましょう。
リスキリングについてのおすすめ書籍紹介
リスキリングについて参考にさせていただいている書籍を紹介します。
ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事である後藤宗明氏著書のリスキリングがわかる・実践できる実用書です。
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